手掌多汗症

手掌多汗症とは

交感神経が高ぶった状態により、手のひら、わき、足裏に過剰な発汗をきたす疾患です。原因不明とされ、全国で人口の約2%の患者がいるといわれています。
症状は手のひらにじんわりと汗が出る程度からぽたぽたと水滴が落ちてしまう状態まであり、緊張すると症状として現れます。

手掌多汗症手術について

汗には2種類あり、暑い時に顔や背中からでる汗は温熱性発汗で普通の汗ですが、緊張した時に出る手の汗は精神性発汗といって交感神経が関与しています。交感神経が過剰に作用し手から過剰な汗がでる疾患が手掌多汗症です。わきや足裏の過剰発汗も伴います。睡眠中は交感神経が休んでいますので、朝起きた瞬間だけは手汗はサラサラしています。

一般に行われている多汗症手術の最大の欠点が代償性発汗です。私は長年の経験から、代償性発汗を最小限に抑えるため低位の胸部交感神経遮断(R4)を実施しています。キズはわずか3ミリで、手術時間は両手あわせて10分以内です。手術直後から手のひらの汗は消失します。わき汗は8割程度の有効率ですが(わき汗は温熱性発汗と精神性発汗)、足汗は15%以下しか効果はありません(足汗は腰部交感神経が関与しています)。したがってこの手術は手汗を止める手術です。全身麻酔ですが術後3~4時間で退院できます。キズはテープで固定するだけですから、抜糸や消毒の必要もなく,翌日からシャワー、翌々日から入浴可能です。

 

※以前は胸膜を切開して神経節そのものを切除する手術法でしたが、現在は肋骨上で神経幹を切離する手術方法が一般的です。したがって、ここで説明する神経の高さは肋骨の部位で表しています。

代償性発汗について

低位(R4)交感神経遮断でも、夏の暑いときや寝汗で背中や胸、ふとももなどからこれまで以上に汗が増加するようになります。しかし暑い夏に外出して歩き回ったり,マラソンなど激しい運動をしたときは顔,額をはじめ背中や胸などから多量の発汗は誰でもあります。したがって低位交感神経遮断を受けた患者様が夏の暑いときに体の一部から汗がでるのは正常な反応であり、これらの汗は代償性発汗というよりも反応性発汗という言葉が用いられます。ではどのくらいの汗の量かといえば、個人で感じ方が違うので言葉では表現できませんが、当院で行っているR4遮断ではR2遮断やR3遮断よりも代償性発汗が軽度であることは生理学的に証明できます。一般的には高位の交感神経を遮断するほど体温調整を支配する視床下部から「もっと汗を出して体を冷やせ」とう命令(フィードバック機構)が強く作用することにより代償性発汗が過剰に増加すると考えられています。代償性発汗は手のひら汗が減少した分だけ他の部位の汗が増える現象ではありません。体温調整するフィードバック機構により脳から命令が出て背中や胸から汗がでる現象ですので、手術前の手汗の量とはまったく相関しません。手の汗が少ない人が代償性発汗が少ないわけではありません。当院では手の汗が止まるできるだけ低位のR4遮断することにより、フィードバック機構による代償性発汗はR2遮断やR3遮断に比べ少なくなります。汗の量には個人差もありますが、R4遮断ではシャツを何枚も何枚も交換しなければならないといった過剰な代償性発汗ではありません。しかし汗の量は定量できるものではなく、あくまでも個人の感じ方で違いがあります。R3遮断でも代償性発汗が思ったより少ないと感じる患者様もおられるでしょうし、R4遮断でも代償性発汗が思ったより多いと感じる患者様もおられると思います。これまでに当院で行ったR4遮断の患者様は8200人以上になりましたが、98%以上の患者様は長年の手の汗の悩みが解消されて満足されています。しかし私が知り得る限りで少なくとも20人程度(全体の0.3%)の患者様は、暑い夏に自分が予想していた以上に背中や胸、ふとももから汗が出るようになったといって手術を後悔されています。したがってR4遮断でも代償性発汗というデメリットは100%ありますので、この手術をお受けになるかどうかは、患者様ご自身がいかに手の汗で悩んでおられるかです。

 手術を後悔しないためには手術を両側同時にするのではなく、片方ずつ慎重に行う選択肢があります。片側手術では代償性発汗は両側の半分の量になりますから、いきなり後悔するような代償性発汗発汗ではありません。まずは利き手の手術を行い、自分の代償性発汗の量、部位をすべて納得してから反対側の手術をするかどうかをゆっくりと判断すれば、少なくともシャツやズボンが濡れるほどの過剰な代償性発汗で後悔することはありません。利き手がサラサラになれば「字を書くときに紙がぬれない」、「躊躇なく他人と手を触れることができる」など、利き手だけの手術でも手術前とは全然違うと十分に満足されている患者様も多くいらっしゃいます。しかも利き手がサラサラになれば精神的にもリラックスできるため、3割の患者様では反対側の手の汗も減少しています。片側ずつ慎重に手術すれば、代償性発汗を体験してから反対側の手術を受けることになり、少なくとも過剰な代償性発汗で後悔するリスクを避けることができます。

再発について

遮断した神経が元の状態にもどって手の汗が手術前と同様に出るようになることを再発いいますが、文献的には多汗症手術後の再発率は1~5%程度といわれています。高位の神経遮断でも低位の神経遮断でも再発はありますが、低位の交感神経遮断(R4)の方が再発しやすいということはありません。当院ではこれまでに8000人以上のの手掌多汗症患者様にR4遮断手術を行っていますが、手術後1~数年後に手術前よりは少ないとはいえ、手の汗が再び出るようになってR3遮断の追加の再手術をお受けになった患者様が108人(1.4%)おられます。逆に他院でR2またはR3遮断をうけた後に再発して当院でR4遮断の追加の手術受けた患者様も50人以上おられます。すなわち他院で高位の交感神経遮断後に再発した場合は当院ではR4遮断を追加し、当院でR4遮断後に再発した場合は当院ではR3遮断を追加しています。

手掌多汗症の一般的治療の専門サイトもご覧下さい。

他人には分からない深刻な悩み

手掌多汗症は幼い時から発症することが多く、「フォークダンスの時に友達と手をつなぐのがイヤだった」、「試験の時にテスト用紙が濡れて困った」など、長い間悩みを抱えているケースが大半です。誰にも相談できず、想像以上に辛い思いを経験している方もおられます。

 

まずはそのお悩みを親身になってお聞きします

当クリニックに手汗に悩む患者様が遠方からもご来院されます。どんな症状で、どれだけ症状に悩まされているかしっかりとお聞きし、最適な治療法を選択していただきます。
手掌多汗症は特にインフォームド・コンセントが大切です。というのも、手掌多汗症には「代償性発汗」というデメリットがほぼ100%あるからです。代償性発汗とは、術後に胸、背中、太ももなど他の部位への発汗が増加する現象をいいます。当クリニックでは、この代償性発汗を少しでも抑えるため「低位(R4)交感神経遮断術」を実施。手術内容や仕組みについて、納得いただけるまで丁寧に説明いたします。大事なのはアドヒアランス、つまり医師から得た情報をもとに、患者さんが主体性を持って治療内容を選択することです。患者さんが望む治療を、私たちと一緒に考えていきましょう。

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